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しまね文化力シンポジウム「物語を生み出す土地の力」 レポート 後編

2011年11月12日(土)島根県民会館中ホール

隠岐古典相撲に残る相手を思いやる心や、小泉八雲が惹かれた山陰の「陰」の部分、それは出雲が大和朝廷に敗れてからの鎖国状態の中で守られてきた島根の尊い気質である-3人のパネラーが、様々な視点で島根の独自の文化について語った前編。今回は、その文化を今後どのように生かしていけばよいかにスポットを当てます。
*一部編集しています。

□パネラー
・藤岡大拙氏(荒神谷博物館館長、松江歴史館館長、島根県文化振興財団理事長)
・小泉凡氏(民俗学者、島根県立大学短期大学部教授)
・錦織良成氏(映画監督『白い船』『RAILWAYS』『わさお』)

■藤岡
 今までヘルンが見出してくれた出雲や隠岐の文化、あるいは監督が映画によって掘り出そうとしておられる伝統文化、そういうものがいわゆる文化力だと思うんですよ。その文化力なるものをこれから維持し、守り、高めるためにどうしたら良いか。
 私は時々文化というものに無力感を覚えることがございます。ちょっと悪い例になるかもしれませんが、あれだけゲーテやハイネを生み出したドイツで何でヒトラーが出てきて、同じ頃にイタリアだって、あれだけの芸術や文化がありながら、ムッソリーニが出てきてあんな格好になる。そうすると一体文化というのは抑止力になっていない、つまらないじゃないか、という想いを時たますることがあるんですが、いや、そうではなくて、外的な政治や経済とは文化は全く違うのであって、別々の物として論ずるべきであると、こんな想いもいたします。

■錦織
 ローマ帝国の愚民政策じゃないですが、みんな楽しませておけば、国民は何でも言うことを聞くぞ、ということでローマは滅亡していくんですけども、日本や世界がそうならないことを願わずにはいられません。なんでもかんでも楽しければいい、雑誌でも、経済でも、もしかしたらテレビでも視聴率が高ければ是、というですね、そういうものに一矢報いるのは文化しかないかなという気がしていますので、皆さんが意識を高めるしかないと思います。

隠岐古典相撲
慶事を祝うため、島を挙げて
徹夜で行われる隠岐古典相撲

 生意気なようですが、やっぱり映画の役割と言うのがすごくあると思っていまして、しまね映画祭をお手伝いしているのも、しまね映画塾も含めてものすごく島根式なんですね。今映画館で映画を観る人が少なくなっていまして、パソコンで映画を観る。これだと自分の好きな時間でいつでも観れる。でもそれは映画ではなくて、大きなスクリーンで、隣の人の息遣いを感じながら観てもらえるのが映画ですし、お祭りもそうですし、コンサートだってビデオで観ても面白くないですよね。みんなで一緒に観るから、聴くから面白いっていう、この違う文化だということの認識すら今無くなっていることに非常に危機感を覚えています。
 「一人勝ち」という言葉が少し前に流行りましたが、一人勝ちをあまり望まない地域というのが遅れていると思われがちですが、必要以上に儲けないことによって、他の人にもチャンスがありますし、共生とか共存という意味合いにおいても、隠岐の島の人たちには、遺恨を残さない装置が神事の中にあって、勝っても負けても相撲には誰でも参加できるんですよね。
 『白い船』や『うん、何?』を気に入って下さったベルギー出身の大学の先生がいらっしゃるんですが、人を敬う姿勢とか、そういう出雲文化はこれからの日本、世界の大きな指針になるんじゃないか、という風なことまで言われました。一人勝ちを追い求める経済成長は、どこかに必ず破綻をきたす、最後は戦争になるんだと。その文化を日本はやろうとしているけれども、日本が今まで島国の中で共生してきた文化活動については非常に興味がある、と言われたときは非常に感銘を受けまして、映画の力で出雲文化をと、そのことばかり考えているわけではないですが、これからも出雲の映画を作っていこうと思います。

■小泉
 今「文化資源」という言葉がよく日本で使われるようになりました。要するにリサイクルの発想で、文化についても今まで蓄積されて、まだ発掘されていない文化を探して、褒めたり批判するだけではなく 、今までと違う第3の解釈をして、それを現代社会に生かしていく、ということを微力ながらやっています。例えば、松江にある怪談話、これを着地型観光に生かした『松江ゴーストツアー』をこれまで132回開催し、2年半で2,300名を超える参加がありました。70%以上が県外の方で、このところ北海道から多くの方がゴーストツアーの為だけに、松江に来ていただいています。これも最初は、どうなるかなと思ってやったんですが、現在では経済活動にもつながり始めているという感触を持てるようになりました。

オープンマインド
昨年ニューヨークで開催された
『The Open Mind of Lafcadio Hearn』

 それから小泉八雲の再解釈について言えば、八雲が開かれた心を持っていたという、その精神性に共感する世界のアーティストにウェブ上で呼びかけて、造形作品で表現して、寄贈してもらうという、そんな大胆なことをやっています。おととしアテネで始まって、去年松江でやりました。松江城の天守閣の中で展示するというとんでもないことをやったのですが、その1ヶ月の登閣者が通常3万人のところ4万5千人ありました。先月はニューヨークでやったら、外国からもマスコミの方がやってきて、今度はダブリンでやりたいという話も出てきています。
 文化と経済というのは、時に切り離して考えていく必要もありますが、決して敵対関係にあるものではありません。いつも経済の後に文化がついてくるものではなくて、文化に僅かな投資をすれば、逆にそれが経済活動に結びつくという夢と期待も十分持ちながら、日常の中で有形無形の文化を発掘して生かしていく、という試みをやっていく必要があるのだと思います。

■藤岡
 老人の一番住みやすいところに島根が選ばれたり、データ的に見てもこの辺がいいところだということは証明されていますが、我々住んでいる者がコンプレックスみたいなものを持たないで、自慢をしてもっと呼び寄せればいいと思うんですけど、それが下手なのが島根県人の良さでもあるんでしょうね。
 文化というものをどうするかというのも、文化を肩肘張ったような大きな文化と考えないで、日常の中での文化と置き換えてみますと、私どもの周りに色んな形で存在します。それを大事に守り、かつ利用するということから始めていけば、きっと島根の文化力というものは、高まっていくだろうと思います。

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